結火・むすび / Vol.07
腐草為蛍 ふそう ほたると なる
二十四節気をさらに三つに分けた七十二候では、現在は「腐草為蛍」となります。腐った草から蛍が光り始めるのだとも、腐った草が蒸れ蛍になって現れるのだとも言われていますが本当の意味ははっきりしていません。ともかくこの時期(6月11日〜6月16日頃)になると日本各地の清流でホタルが現れ、この時期が終わると去って行きます。
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自らの手でキャンドルをつくり、世界中に火を灯し続けている人がいます。その人は、Candle JUNEさん。日本、アメリカ、アフガニスタン、イギリス、フランス、カンボジア、中国、そしてさらに広い世界へとJUNEさんは火を灯す旅を続けています。紛争や震災で哀しみ、固まってしまった人の心を少しでもやわらげたい、そういう衝動にかられたとき、JUNEさんは火を灯します。

本日は、暦の上では、「腐草為蛍(ふそう ほたると なる)」。腐った草が蒸れ蛍になる、という意味です。きれいな水面に草が豊かに生えているところでは、蛍の光を目にすることができます。蛍の光は、1週間しか見られない儚い光。その間に交尾の相手を見つけ、卵を産み落とすと同時にその短い一生を遂げます。いわば命の光でもある蛍の光は、一度目にすると心に宿り、目には見えない光となって人の心を灯しつづけると、昔の人は信じていました。

今晩は、JUNEさんの命の火のお話をお届けします。




Candle JUNE  キャンドルジュン
キャンドル・アーティスト

1994年にキャンドルの制作を始める。ギャラリーやサロンなどでエキジビションを開催。ファッションショー、レセプションパーティのデコレーションや、Fuji Rock Festivalをはじめとする野外イベント、Ben Harper、Neil Young、M.M.Wなどのライブステージにキャンドルを中心とした空間演出で参加。2001年に広島で「平和の火」を灯してから「Candle Odyssey」と称する争いのあった地を巡り火を灯す旅を始める。アメリカを横断、N.Y,グランド・ゼロで火を灯し、その後アフガニスタンへ。国内各地を灯しながらも、カンボジアの孤児院を巡り、パリコレクションに演出で参加すると共にテロ事件のあったロンドンも訪れる。05年より終戦記念日に中国チチハルにて火を灯す。また新潟中越地震被災地川口町をはじめとした震災地でもイベントを開催する。
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1994年にJUNEさんがキャンドルの制作を始めたきっかけは、10代の終わりにそれまでの人生を大きく振り返ったことにあります。その後、長い間生きて行くのなら、本当に終わりを楽しみに思える人生を生きたいと思い、多くの余計なものを取っ払ったJUNEさんは、キャンドルを手にしました。

「キャンドルの火には限りがあります。自分の命にもまた、限りがある。火を見続けることは、自分の命を見続けることと同じ。そう思ってキャンドルをつくり始めたんです。」

JUNEさんの代々木上原のお店には、大人の腕でも抱えきれないくらい大きなものから、手のひらに乗る小さなものまで、様々なサイズのキャンドルがありました。凝りすぎないように、少しだけ絵が彫られたり、色が混ぜられただけというシンプルなデザインを施した円柱型のキャンドルが多いです。

「キャンドルには、ふだん、目にした色を混ぜます。その日、空が青くて、雲が綺麗に浮かんでいたら、白と青にするとか。」


JUNEさんのキャンドルは、ギャラリーでの展覧会、FujiRock野外フェスや、ニールヤングやベンハーパーのイベントの空間演出にも登場します。NYのグラウンドゼロ、終戦記念日での中国のチチハル、テロのあったロンドン、いまだ地雷が多く残るカンボジアでも火を灯しています。日本国内では100万人のキャンドルナイトの夏至フェスや、地震のあった新潟や神戸、大阪のキャンドルナイト。そして広島の平和の火を灯してから国内をめぐるCandle Odysseyなど、様々です。JUNEさんにとって、キャンドルをつくり火を灯すことは、自分の命を見つめることに加え、平和を願い、世界中の人の心に命の火を灯す使命でもあります。

ELDNACS
Candle JUNEの直営店。お店に入ると壁一面のキャンドルに圧倒。JUNEさんもちょくちょく顔を出しているとか。キャンドルだけでなく、アクセサリーやクリスタルの販売もしています。
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「環境や戦争の問題は、1人1人の心の問題です。哀しみが続く限り、みんなの心に火を灯し続けたい。」

日常の中に紛争があって傷ついた人の心も、日常の中に紛争はないけれど慌ただしい毎日を送る人の心も、同じくらい固くなって、大切な何かを忘れてしまいます。

「第一次、第二次世界大戦のような戦争は起こっていないけれど、自分は9.11が第三次世界大戦を象徴しているような気がしてなりません。どこの国が敵でどこの国が味方かもはやはっきりしない今となっては、実のところ、みんなが戦争の当事者です。けれど、人が口にするのは、戦争反対と叫ぶか、戦争なんて終わらないという諦めの言葉しかありません。自分は、自分が戦争を終わらせる、そう言いたい。」

1つ1つ言葉を慎重に選びながら、かみしめるようにJUNEさんは話します。常に起きている紛争やテロは、メディアを通して知る「世界の事情」。自分が暮らす世界の話なのだから、今日をただ、生きていることも、どこか遠くで起きている戦争に加担していることになっているのです。


ただ、その実感はなく、心がどこか麻痺してしまっているのが現実かもしれません。

「戦争を終わらせる、と言っているとはいえ、自分が生きている間に実現するかといったら、できないかもしれない。ただ、夏至フェスの代々木公園で、キャンドルを灯していると、目の前の人の表情がやわらかくなっていくのを目にするし、その場の空気のバイブレーションがすごく心地のよいものになるので、そうした小さな火の積み重ねが、いつか遠い未来に繋がっているといいなと思うんです。」

10代の終わりに、キャンドルの火と向き合うことを決めたJUNEさん。今でも、ご自身の人生に終わりがくるのを楽しみに思っていますか。


「自分はいつも、魂の火を消す日がくることを楽しみに思っています。人生が終わる時というのは、やすらかな眠りにつく時。眠りの中で、やり残して来たことや、やっとけば良かったことを考えてしまうようではいけません。その時がまだ来ないのは、来世に持ち越してはいけない、自分がやるべきことがまだまだ残っている証拠なんだと思うんです。だから、自分は当分の間、自分の生に、世界中の人の生に火を灯し続けます。」

そう話す、JUNEさんの後方に並んだキャンドルの、原色に近いその色は、日本的というよりは、ネイティブアメリカンが身につける民族衣装に似ています。JUNEさんの生き様もまた、ネイティブアメリカンの思想に近いものがあります。

わたしはJUNEさんと話していて、Nancy Woodという女性詩人(米)が、ネイティブアメリカンの死生観を表現した、ある詩を思い出しました。

その詩は『今日は死ぬのにとてもよい日だ。』という始まりの文句が印象的な詩です。あらゆる生の美しさを目にし、悪いものは全て出て行き、畑に最後の鋤を入れ終えて、我が家はこどもたちの笑い声で満ちている今日という日は、死ぬのにとても良い日だ、という内容の詩です。

なぜか「死」には、ネガティブなイメージがまとわりつきます。人生を途中で諦めてしまって自殺する人や、憎しみや恨みによる他殺など、哀しいニュースが流れる現代社会では、仕方のないことなのかもしれません。それでも、「いま 笑ったり、泣いたり、怒ったり、苦しんだり」することで、「生きている」ことは世の中で暮らす人間ならば誰でも同じことです。

 

個々が生きている「いま」、地球も生きています。地球が笑ったら空が真っ青に晴れ、泣いたら涙が降り、怒ったら震災が起こります。過ぎてゆく「瞬間(いま)」を見つめ、自分と大切な人の手のぬくもりを感じるだけで、その積み重ねの先には、JUNEさんのように「魂の火を消すことが楽しみです」と屈託なく言えるようになる未来が待っているのかもしれません。

JUNEさんの火のそばにいると、心が柔らかくなるのは、JUNEさんの死に前向きな潔い生そのものが、JUNEさんのキャンドルにこもっているからではないでしょうか。

「自分の灯したささやかな火が、ずっと先の未来に繋がっていたらいいなと思います。それは途方もない未来で、いま2007年だけど、たとえばさらに2007年後の未来の地球の教科書には、世紀をまたいで生きるぼくら世代の、ゆるやかな心のつながりが『世界維新』なんてぐあいに書かれていたら、この歴史を生きた意義があるってものですよね。」

蛍の火も、JUNEさんの火も、限りがあるからこそ美しいその火は、消される日を迎えたのちも、人の心に宿り続けます。今年の夏至も、日本中に灯すJUNEさんのキャンドルは、JUNEさん自身が描く、彼の命の火のスケープ。そのスケープは、夏至の日を過ぎても、いつまでも、わたしたちの心に目には見えない火を燃やし続けてくれることでしょう。

むすび書き:香音(かのん)




暦の待ち受け画面ダウンロード
http://www.hijiri.jp/m/0612.jpg(43KB)

今回の暦の待ち受け画面
CandleJUNEさんのキャンドルを眺めていると、さまざまな色がほのかな灯りに透けて見えてきて、ついつい引き込まれてしまいます。今回は昨年末開催された「100万人のキャンドルナイト@OSAKACITY」でのJUNEさんのキャンドルアートをお送りします。

「結火」では毎回、メールマガジンの配信と連動して配信された日の暦のケータイ用待ち受け画面をお送りします。その季節を代表する写真の上に、その日の旧暦での日付(2007年6月12日は、旧暦では4月27日になります)

そして、その日の月齢(2007年6月12日は、月齢26.5)が表されています。

ひじりのこよみ:
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